『産業看護職駆け込み寺』は、「保健事業に携わる人の情報誌 へるすあっぷ21」で、2020年4月号~2022年3月号まで連載されました。
産業看護職のさまざまなお悩みに、ベテラン産業保健師の今田が教科書的な正解とはちょっと離れた斜めの視点(?)からお答えしています。
データ活用の具体例を知りたい
健診結果や職場巡視で得た情報など、社員の健康状態や働き方に関するデータを相互に活用すれば、もっと幅広い産業保健活動ができるのではと考えていますが、具体的にどうすればよいのかがわかりません・・・。
私たち産業看護職は日々の業務にともなって、多くのさまざまな情報を入手することができます。
それらを相互活用して、もっと幅広い産業保健活動をしたいと思いつつ、どうすればよいかと困っておられるのですね。
でも、あまり堅苦しく考えなくてもよいと思いますよ。
たとえば、健康管理室に「腰が痛いから湿布が欲しい」とやってきた従業員に、湿布を貼ってあげるだけなら誰でもできます。
ただ、私たちは専門職ですから、症状を詳しく確認したり、健診・問診のデータや職場巡視など日ごろの業務で入手した情報も参考にして、腰痛と作業との関連にも着目したいですよね。
これも『情報を相互活用した実践』といえるのではないでしょうか。
とくに健診結果は、看護職にとって最も身近で扱い慣れているデータです。
労働者一人ひとりの健診結果を丁寧に確認している看護職だからこそ気づくこともあると思います。
まずは看護職が得意な『健診結果を起点にして関わりを開始する』というやり方から始めてみるのもひとつの方法ですよ。
例として、私の経験談を2つご紹介します。
1つ目は「特殊健診結果と職場巡視」です。
ある塗装職場で有機溶剤健診を受けている10数名のうち、毎回1人だけ尿中代謝物が高いAさんのことが気にかかっていました。
問診によると、Aさんは塗装機械の洗浄と塗料調合の作業に従事しており、職場の作業環境測定結果は問題なしです。
私は職場に出かけて行き、複数の作業者から話を聞いて、いくつか作業を見学しました。
そしてAさんの塗料調合作業を見学したとき、衝撃を受けたのです!
Aさんは保護マスクも保護眼鏡も着用しておらず、手袋はしていたものの、作業服の袖をたくし上げた腕はむき出しの状態でした。
作業も雑で、塗料がバシャバシャと周囲に飛び散っています。
すぐに産業医に報告し、産業医が作業を確認したうえで、塗装部門の課長へ説明と指導が行われました。
2つ目は「定期健診結果とメンタルヘルス」です。
20代前半の男性Bさんは標準体重で、定期健診結果は毎年異常なしです。
ただ今回は、体重が前年より5kgも減っていたのが気になりました。
たまたまBさんと同じ職場の従業員から、Bさんが先輩からよく怒られていると聞き、ますますBさんの体調が心配になって、保健指導に来てもらうことにしました。
Bさんから話をきいたところ、よく眠れず、食欲もなくて1日1食しか食べていないとのこと。
背景には家庭の事情によるストレスがあるようでした。
そこで、Bさんを説得して心療内科を受診してもらい、2カ月間の休職を経て体調が回復し、職場復帰することができました。
この事例は本連載で過去にご紹介した職場環境改善(2021年1月号)にもつながっています。
おそらくあなたも、すでに同じような活動をされていますよね。
ならば、どうすればよいかと悩まなくても大丈夫です。
日々の業務でも『情報を相互活用した実践』でできることを意識しながら産業保健活動の幅を広げていきましょう!
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